診療・各部門
ペースメーカー
医師 中村玲奈
「ペースメーカー」という言葉は、どこかで耳にしたり、電車や待合室で「ペースメーカーへの影響があるため機械の電源を切ってください」というような文言を目にしたことがあるかと思います。 では一体ペースメーカーとはどのようなものなのでしょうか。
ペースメーカーには大きく3種類あり、「遅い脈を補助するためのペースメーカー」、「心室性頻脈性不整脈に対し電気ショックをかけることができるペースメーカー」、「低下した心機能に対し心収縮を補助する心不全治療のためのペースメーカー」があります。
遅い脈を補助するためのペースメーカー
ペースメーカーと言われるほとんどは、この徐脈に対するペースメーカーです。脈が速いことに対しては、薬物治療やカテーテルアブレーションなど治すための治療がありますが、脈が遅いことについては、原則そのような治療選択がありません。よって、体内にペースメーカを植え込み、機械が心臓を刺激・収縮させることで脈が正常になるよう調整します。
脈が遅くなる原因は洞不全症候群、房室ブロックなどありますが、薬剤性など可逆的な原因があるものは必須の薬剤でもない限りは、ペースメーカーは挿入せず原因を除去し脈の改善を図ります。
植え込み後の生活については、強い磁場・電気などはペースメーカーへの影響から避けていただく必要はありますが、概ねほとんど変わりません。運動することも可能です。また車など運転される方は、いずれのペースメーカーも埋込後は運転制限がありますのでご注意ください。詳細については、実際にペースメーカーが検討される段階になりましたら、担当医師や臨床工学医師から説明させていただきます。また、電池寿命が10−15年ほどであり、電池が切れる前に新しい電池へ交換する手術が必要です(リード線はそのままです)。
心室性頻脈性不整脈に対し電気ショックをかけることができるペースメーカー
いわゆる「埋込型除細動器」と言われるものです。これは血管内にリード線を入れるタイプ、皮下に挿入するタイプがあります。
頻脈性心室性不整脈(心室頻拍、心室細動)に対しては、別章でも記載させていただいた通り、たとえ治療を行っていたとしても、不整脈が出現・持続することがあり、意識がなくなって倒れて怪我をしたり、時として意識が戻らず致死的となります。また、不整脈は時間が経つにつれて電気ショックをしたとしても停止効果が下がるため、なるべく出現後早期に停止させることが必要です。そこで、埋込型除細動器があることで、不整脈が出現するとすぐに感知・鑑別し、一定時間持続すると自動的に治療(頻拍ペーシング、電気的除細動)が入り不整脈を停止させます。病院搬送やAEDを発見・装着する時間を考えると、圧倒的に短い時間で治療に入ることができます。不整脈リスクが高い方では、埋込型除細動器を挿入することで、挿入しない方と比較すると予後が良いことがわかっています。
徐脈のためのペースメーカーと比較するとやや大きいですが、日常生活等の制限は両者でほとんど違いありません。
低下した心機能に対し心収縮を補助する心不全治療のためのペースメーカー
心機能が低下すると、全身へ血液を送るポンプ機能が失調するため、心不全をきたします。十分な薬物治療を行なっても心機能自体を改善させることは難しく、それでも心不全に至ってしまう原因の一つに、左室の同期性の低下があります。心臓の収縮力は主に左室で賄われており、この左室が収縮する際に、全体が同時に収縮するのではなく、部位によってバラバラのタイミングで収縮すると(左室同期性の低下)、左室内の血液を十分に拍出させることができず、ポンプ失調に至ります。そこで、この左室を両側(左室側壁、右室中隔)から刺激することで左室全体がなるべく同時に収縮するように調整するものを、「両心室ペーシング機能付ペースメーカー」といいます。左室同期性が失われていない心機能低下の場合は適応となりません。また除細動器も一緒になった「両室ペーシング機能付除細動器」もあります。この「両質ペーシング機能」によって、将来心機能が改善したり、心不全のリスクが低下することがわかってきています。
いずれのペースメーカーも、リード線は基本的に挿入後抜去することはありません。一生体内に入っていることになりますので、適応となるかは患者様それぞれ十分に検討して治療にあたります。詳細については担当医師にご確認ください。
更新日:2023/12/06