診療・各部門
当院は地域医療機関との連携を図る、紹介制を原則としております。
このため初診の場合、緊急の場合を除き、「かかりつけ医」など地域の医療機関からの紹介状をご持参下さい。
紹介状は必ずしも専門医からの文書でなくてもかまいません。
※紹介状持参の方は、初診、再診すべて総合医療相談センター(8番窓口)へ。
血液内科のご案内
各種貧血および造血器悪性疾患、血栓性疾患や止血異常による出血性疾患等幅広く血液疾患の診療を行っています。またエイズ診療拠点病院としてHIV感染症を包括的に診療しています。
【特色】
造血器悪性疾患では主に悪性リンパ腫、急性白血病、慢性白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫の診断・治療を行なっています。無菌室は2室あります。
1) 各科/多職種によるチーム医療〜安全に治療を遂行するために
患者さんが前向きに治療に参加できるように病気について、治療について小冊子冊子を使用しわかりやすく説明しています。医師、薬剤師、看護師、検査技師は治療に関する情報を共有し、安全に治療が遂行できるようにチームでサポートしています。治療薬による副作用の予防対策や症状の軽減をはかる対策は適切に行なっています。
さらに患者さんのQuality of Life (QOL)の維持を目標に、無理なく治療が継続できるように外来化学療法を行っています。外来⇔入院の移行は円滑です。
2) 最短での全身精査
入院患者さんにおいては約1週間で骨髄穿刺・生検、上・下部内視鏡、CT/MRI (外来で未施行の場合)、髄液検査、心エコー等の検査が可能で、速やかに治療が開始できます。
3) 各科との垣根の低い診療体制
悪性リンパ腫はリンパ球が腫瘍化した疾患で、多くの病型がありますが、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の2つに大別されます。ホジキンリンパ腫はリンパ節腫脹で発症することが多いのに対し、非ホジキンリンパ腫の約半数はリンパ節以外のあらゆる部位に発症します。このため血液内科以外の科を受診されることがあり、早期診断には各科との垣根の低い連携が重要です。また造血器悪性疾患の多くは、高齢化に伴い増加傾向にあります。造血器悪性疾患と診断された際に糖尿病や心疾患、呼吸器疾患等の併存疾患を有する患者さんでは、チーム医療で併存疾患をコントロールしながら薬物療法の選択と投与量を決めています。
【主な疾患と薬物療法】
1)悪性リンパ腫
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫は非ホジキンリンパ腫の30-40%を占め、最も発生頻度の高い病型です。抗がん剤治療はCHOP療法 (シクロホスファミド+ ドキソルビシン+ ビンクリスチン+ プレドニゾロン)に、分子標的治療薬 のリツキシマブ (キメラ型抗CD20モノクローナル抗体)を併用したR―CHOP療法が標準治療で、高い治療効果が得られています。リツキシマブはB細胞性リンパ腫細胞に発現しているCD20抗原というタンパク質に結合し、リンパ腫細胞を破壊します。
CD20陽性濾胞性リンパ腫では抗がん剤にリツキシマブやヒト化抗CD20モノクローナル抗体 (オビヌツズマブ)を併用して治療します。
再発・難治性の低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫およびマントル細胞リンパ腫に対し, RI (アイソトープ) 標識抗CD20モノクローナル抗体(ゼヴァリン)の治療を行っています。分子標的治療と局所放射線照射の効果を同時に得られる治療法です。
末梢性T細胞性リンパ腫の代表的な抗がん剤治療はCHOP療法です。分子標的治療薬には微小管阻害薬結合抗CD30モノクローナル抗体 (ブレンツキシマブ ベドチン)、ヒト化抗CCR4モノクローナル抗体 (モガムリズマブ)があります。未治療のCD30発現末梢性T細胞リンパ腫に対して、ブレンツキシマブ ベドチン(A)+CHPがCHOP療法よりも有意な無増悪生存期間の延長を示したと2018年に報告されました。
ホジキンリンパ腫では抗がん剤 (ABVD療法)に、微小管阻害薬結合抗CD30モノクローナル抗体を併用したA-AVD療法で治療しています。免疫チェックポイント阻害薬も使用可能です。
2)急性白血病
進行が早いため白血病が疑われたらすぐに骨髄穿刺・生検を施行します (染色体や細胞表面マーカー、遺伝子検査も行います)。診断がつき次第、入院にて抗がん剤治療 (寛解導入療法〜多剤併用化学療法)を開始します。骨髄中の白血病細胞が<5%まで減少することを目標とした強力な化学療法です。完全寛解に到達しても体内では白血病細胞が残存しているため、寛解後療法を行います。造血幹細胞移植が適応で条件が整えば、大学病院等の血液内科と連携し紹介させていただきます。
急性白血病は急性骨髄性白血病 (AML)と急性リンパ性白血病 (ALL)に大別されます。
AMLでは抗がん剤治療の他に、分化誘導療法、分子標的治療があります。
分化誘導療法とは、白血病細胞を成熟した白血球に分化させる作用を有する薬剤です。初発の急性前骨髄球性白血病(APL)ではビタミンAの誘導体であるオールトランス型レチノイン酸 (ATRA) ± 抗がん剤で治療します。タミバロテンは再発または難治性APLの治療薬です。
分子標的治療にゲムツズマブオゾガマイシンがあります。白血病細胞のCD33抗原に対する抗体のゲムツズマブに抗がん剤であるオゾガマイシン (カリケアマイシンの誘導体) を結合させ、抗体を介してオゾガマイシンが白血病細胞内に取り込まれ殺細胞効果を発揮します。CD33が陽性の再発または難治性のAMLに適応があります。
ALLではフィラデルフィア染色体 (Ph)の有無を確認します。Ph染色体は成人ALLで最も多い染色体異常で陽性率は約25%です。Phの遺伝子から作られる異常なタンパク質 、Bcr-Ablチロシンキナーゼが白血病細胞を増殖させます。Ph陽性ALLの治療には多剤併用化学療法とともにチロシンキナーゼ阻害薬を併用します。これにより治療成績の向上がみられています。
再発および難治性のB細胞性ALLの治療として、2018年にイノツズマブオゾガマイシンが使用可能となりました。白血病細胞表面のCD22抗原を標的にするモノクローナル抗体のイノツズマブと細胞傷害性化合物のカリケアマイシンを組み合わせることで、白血病細胞特異的に効果を発揮する薬剤です。高い寛解率が期待されています。同年にブリナツモマブも使用可能となりました。白血病細胞表面のCD19抗原と細胞傷害性T細胞の表面に発現するCD3に結合する二重特異性抗体です。白血病細胞とT細胞を架橋することで、T細胞を活性化し、抗腫瘍効果を発揮します。
3) 慢性骨髄性白血病
慢性骨髄性白血病 (CML)は、フィラデルフィア染色体 (Ph)上にあるBCR-ABL遺伝子によってつくられるBcr-Ablタンパク (チロシンキナーゼ)が白血病細胞を増やす指示を出すことにより、白血病細胞が増殖する疾患です。
以前は同種造血幹細胞移植が治癒が得られる唯一の治療法でしたが、2001年分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬; TKI)であるイマチニブの登場により治療成績が飛躍的に向上しました。長期生存率は90%以上に達し、治療の第一選択薬は分子標的薬となりました。第一世代のイマチニブに続いて第二世代のダサチニブ、ニロチニブ、第三世代のボスチニブ、Bcr-AblのT315I変異型にも有効なポナチニブ等、治療の選択肢は広がっています。
4) 骨髄異形成症候群
骨髄異形成症候群 (MDS)は、造血幹細胞に異常が生じて、正常な血液細胞 (白血球、赤血球、血小板)が造れなくなる疾患です。進行すると急性骨髄性白血病に移行します。治療は低リスク、高リスクで異なります。
低リスク患者さんにおいては血球減少に対する対応と、その改善を治療の第一目標とします。高リスク患者さんでは白血病転化リスクが高いことより、より積極的な治療方針がとられます。抗がん剤では アザシチジン(AZA)が第一選択薬で高リスク患者さんの予後を改善することが示されています。条件が整えば同種造血幹細胞移植も考慮されます。
5) 多発性骨髄腫
形質細胞とは白血球の一種であるBリンパ球が分化・成熟した細胞です。形質細胞が腫瘍化した疾患が多発性骨髄腫です。
多発性骨髄腫の薬物療法は、近年新規薬剤が次々と登場し治療成績は向上しています。治療薬には免疫調整薬〜サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド、プロテアーゼ阻害薬〜ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、イキサゾミブ、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬〜パノビノスタット、抗体薬〜エロツズマブ (抗SLAMF7抗体)、ダラツムマブ (ヒト型抗CD38モノクローナル抗体) 等があります。
6)血栓・止血領域
これまで第V、VIII因子インヒビター症例、先天性/後天性血友病、先天性/後天性フォン・ヴィレブランド病, 第XI因子欠乏症、プロテインS欠損症、ヘパリン起因性血小板減少症、抗リン脂質抗体症候群等を診断・治療しています。
7)HIV感染症
1997年よりエイズ診療拠点病院として, 各科/多職種によるチーム医療を行なっています。疾患について、治療について医師、薬剤師、看護師より丁寧に説明を行なっています。合併症/併存疾患等の治療も並行して行なっています。
8)上記以外の疾患
特発性血小板減少性紫斑病、Evans症候群、悪性貧血、先天性・後天性血友病及びvon Willebrand病、血栓性血小板減少性紫斑病、骨髄線維症、家族性血小板異常症、TAFRO症候群等の診断・治療を行っています。
血液疾患の治療薬や抗HIV薬は日進月歩で進化しています。薬剤の特性、副作用等を十分検討し、積極的に治療に取り入れています。
日本血液学会・新専門医制度基準における血液専門研修認定施設、エイズ診療拠点病院