食道がんの手術のコーナー

診療・各部門

令和3年(2021年)5月 初版
食道胃外科診療部長 久保田啓介

 このコーナーをご覧になっている方は、今どんな気持ちでお読みになっていらっしゃるでしょうか。ニュースで有名俳優の食道がんの話題を聞かれた方、知り合いが食道がんと診断された方もいらっしゃるでしょう。また残念ながらご家族やご自身が病院で食道がんと宣告を受けて読んでいらっしゃる方もおられるかもしれません。
 「食道がんってよくないって聞いたけど?」とか「食道がんって治るの?」、また「食道がんの手術って大変なのかな?」など、いろんな疑問があると思います。
 きちんとした検査と治療をうければ十分に治る病気ですのでご安心ください。このページを読んでいただいて、どんな病気か、どんな治療をするのか、まずは食道がんのイメージをお持ちください。今回は食道がんの手術がテーマですので、少し詳しく手術のおはなしをします。最後に食道がんに対する病院の取り組みをおはなしします。

このコーナーの内容

1.食道がんについてのおはなし
    食道がんはどんな病気でしょう
    食道がんはどうやってみつかる?
    食道がんにはどんな治療法がありますか?
       コラム① なぜ手術をした方がよいのか

2.食道がんの手術のおはなし
    食道がんの手術って何をするの?
    食道がんの手術の具体的なやり方を教えてください。
       コラム② リンパ節、リンパ節郭清とは
    胸腔鏡、腹腔鏡手術もできるんですか?
       コラム③ 胸腔鏡、腹腔鏡手術の利点
    食道がんの手術後はどんな経過をたどりますか?
    食道がんの手術は危険??

3.東京山手メディカルセンターの食道がんへの取り組み
    食道がん治療に関わるスタッフ
    手術に対する外科医の取り組み
    手術までの準備
    手術後のサポート体制

1.食道がんについてのおはなし

食道がんはどんな病気でしょう

 食道がんになりやすいのはお酒をたくさん飲む人(特に強い酒を飲む人や、フラッシャーと呼ばれる酒を飲むと顔が赤くなる人)、たばこを吸う人、熱い食べ物を好んで食べる人などです。最近では肥満を背景にした胃食道逆流により、食道と胃の境界部の食道がんが増えています(「食道胃接合部がん」と呼ばれています)。

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食道がんはどうやってみつかる?

 食道がんは健康診断や食べ物のつかえる感じなどで、内視鏡検査や食道造影検査(バリウム)によって発見されます。CT検査で進行度(ステージ)を判断します。進行度診断が大切なのは、進行度により後の生存・再発確率が違うためです。またそのために治療法が進行度によって異なってきます。
 東京山手メディカルセンターの診察や健診で見つかる方と、お近くの病院で見つかって当院にいらっしゃる方がいます。

図の出典:「食道がんを正しく知ろう!」(日本食道学会)

https://www.esophagus.jp/public/cancer/(2021年5月9日)

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食道がんにはどんな治療法がありますか?

 治療には手術治療、化学放射線療法、内視鏡治療、緩和治療があります。食道がんの大部分の方には手術を行います。食道がんの特徴として化学放射線療法(抗がん剤と放射線照射を同時に行う治療)もよく効き、手術とほぼ同等の治療と考えられます。一部の特に初期の方は内視鏡で食道の病変部を切除すれば治癒します。手術も化学放射線療法もできない方には症状を和らげる緩和治療を行います。
 必ずしも単一の治療法で治療できるわけではなく、いくつかの治療法を様々に組み合わせて治療を進めます。例えば進行した食道がんの方では手術前に抗がん剤治療(約6週間)を行ったのちに手術を行います。

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2.食道がんの手術のおはなし

食道がんの手術って何をするの?

 食道がんの手術は、食道の切除、頚部・胸部・腹部のリンパ節の切除(「3領域郭清」)、食べ物の通り道を作ること(「再建」)からなります。進行食道がんではがんが食道のどこに発生した場合でも、頚部・胸部・腹部のいずれのリンパ節にでも転移することが知られており、大部分の方には上記の手術を行います。再建は通常胃を用いて行いますが、過去の手術などで再建に胃が利用できない場合には大腸を用いて再建する手術となります。
 このように食道がんの手術は胸部、腹部、頚部の広い範囲で操作を行い、心臓や肺に負担を掛けながら行う大きな手術です。手術は胸部の操作に4時間ほど、腹部と頚部の操作および再建で4時間ほどと、合計で約8時間を要します。患者さんの体型や腫瘍の状態などにより、また大腸再建を要する場合などでは10時間ほど要することもあります。

https://www.jsgs.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=9#01
                            もとに作成(2021年5月9日)

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食道がんの手術の具体的なやり方を教えてください。

 通常の食道切除、3領域リンパ節郭清、胃管再建手術では、まず胸部で食道の切除とともに周囲のリンパ節を郭清します。次に腹部で胃の周囲のリンパ節を郭清し、再建に用いる胃管を作成します。術後に栄養剤や薬剤を投与するために、小腸に細いチューブを入れます(「腸瘻」)。最後に頚部で頚部リンパ節を郭清し食道と胃管を縫合して再建します。
 一部の下部食道に発生した比較的早期の食道がんの方では、中部・下部の食道切除、胸部・腹部のリンパ節郭清、胸の中(胸腔内)で食道と胃管を再建する手術(「2領域郭清・胸腔内吻合」)を行います。また食道と胃の境界部の食道がん(または胃癌)の方には、下部食道と胃の半分(または全部)の切除を行います。

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胸腔鏡、腹腔鏡手術もできるんですか?

 以前は胸部を大きく(約20 cm)切開したうえで肋骨も切離して、腹部も大きく(約15 cm)切開して行っていました(開胸開腹手術)。最近では胸部では胸腔鏡、腹部では腹腔鏡を用いて手術を行います(「鏡視下手術」といいます)。鏡視下手術では胸に12 mmと5 mmの穴を5か所、腹に約8 cmの小切開と穴を3か所開けて行います。

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食道がんの手術後はどんな経過をたどりますか?

 術後は集中治療室で血圧や呼吸の状態を厳密に管理します。約1週間で集中治療室を出て一般の外科病棟に戻ります。この頃から食事が開始となり、徐々に痛み止めの硬膜外カテーテル、尿道カテーテル、頚部や腹部に留置したドレーン(排液用のチューブ)、栄養補給の点滴が抜けていきます。順調であれば約1か月で退院となります。このように食事や運動などの日常生活がほとんど普通に送れるような状態で退院します。2か月ほどでお仕事に戻る方が多く、旅行なども可能です。

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食道がんの手術は危険??

 食道がんの手術に限らず全身麻酔を伴う手術では一般に、出血、細菌感染(創の感染や肺炎など)、心臓・肺などの異常、肺塞栓(いわゆる「エコノミークラス症候群」)といった危険を伴います。食道がんの手術は胸もお腹も操作する長時間の手術ですから、特に肺炎の危険が大きいといえます。このため手術する場合は絶対にタバコを止める必要があります。
縫合した食道と胃管が完全につながらないことがあります(「縫合不全」といいます)。縫合不全が起きた場合には食事を食べないで縫合部が閉鎖するのを待ちます。約2週間で閉鎖して治癒します。
 声帯の動かす神経(反回神経)の麻痺が起きることがあります。反回神経麻痺が起きると声がかすれたり(「嗄声(させい)」)、飲み込んだ食べ物が気管に入ったりする(「誤嚥」)ようになります。多くの場合は軽症で、4ヶ月ほどで自然に軽快します。

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3.東京山手メディカルセンターの食道がんへの取り組み

食道がん治療に関わるスタッフ

 外科医は手術だけでなく、患者さんが食道がんを治して元気に回復されるように病院内の様々なスタッフとともに治療に取り組んでいます。

各科医師:循環器、呼吸器、麻酔科、耳鼻科、歯科など
看護師:外来、外科病棟、手術室、集中治療室(ICU)
薬剤師:抗がん剤治療も含む
栄養科:栄養サポートチーム(NST)
リハビリスタッフ:運動リハ、嚥下・言語リハ
ソーシャルワーカー(MSW):退院に向けた支援

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手術に対する外科医の取り組み

 東京山手メディカルセンターの外科では手術のほとんどすべてを鏡視下手術で行って、身体の負担と創痛を少なくして術後の回復を早くしています。手術時に腸瘻を作り、手術当日から腸に栄養剤を入れて(「経腸栄養」)、栄養状態や免疫の働きを高めるようにしています。ドレーンはできるだけ手軽なものを用いて、早く取り除くことで術後の運動の妨げにならないようにしています。

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手術までの準備

 専門の医師の診察を受けて心臓や肺の状態を確認します。耳鼻科の医師に食べ物の飲み込み具合や声帯の動きの状態をみてもらいます。口腔内の雑菌が消化器の術後には悪影響を及ぼしますので、歯科医師が診察と治療をします。
 看護師を中心にカウンセリングをおこない、禁煙指導など行います。
 薬剤師はこれまで飲んでいるお薬を確認し、中止したり必要なものを加えたりします。
 食道がんの患者さんには、お酒の飲み過ぎやご飯が食べられなくて痩せてしまっている方がたくさんいらっしゃいます。栄養士の指導のもと、栄養剤も用いて栄養状態を改善します。
 肺炎を予防するため呼吸訓練器を用いた呼吸訓練を行います。
 このように、より良い状態で手術に臨みます。

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手術後のサポート体制

 麻酔科医師に手術後の傷の痛みをしっかり取り除いてもらいます。万一心臓や呼吸の状態が落ち着かない場合、ご飯が飲み込みにくい場合などには専門の医師が治療します。手術後も歯科の診療を継続します。精神状態が落ち着かない場合には精神科医師が助けてくれます。
 手術の翌日には集中治療室にいますが、看護師とともに起立して歩行を行います。外科病棟に戻ったあとでも、深呼吸をして痰を出すこと、体を清潔に保つことなどが自力でできるように看護師が手助けしてくれます。
術後の食事として、誤嚥を避けるために嚥下食と呼ばれるゼリー状の食事も用意しています。患者さんに応じて最適な食事を提供しています。
 ベッド上から始めて、元気になったらリハビリ室で筋力の回復を行います。食物の飲み込み(嚥下)のリハビリも重要です。
 ご自宅での生活、お仕事などの社会生活への復帰、経済的な問題などにソーシャルワーカーが対応してくれます。
 外科以外にも大変頼もしいスタッフが皆さんを手助けします!

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おわりに

繰り返しですが、

 とても不安な気持ちでこのページを読み始められたことと思いますが、少し安心していただけたら幸いです。
 ご自身やご家族で実際に治療が必要な方は、受診していただければ病院でより詳しくご説明します。

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食道がんは食道にできるがんです。食道がんは65歳から70歳の高齢男性に多いがんです。日本では毎年約2万人が新たに食道がんと診断される比較的少ないがんですが(いわゆる「稀少がん」のひとつ)、年々徐々に増加しています。約1万人の方が食道がんで亡くなっています。

</p 食道がんは食道にできるがんです。食道がんは65歳から70歳の高齢男性に多いがんです。日本では毎年約2万人が新たに食道がんと診断される比較的少ないがんですが(いわゆる「稀少がん」のひとつ)、年々徐々に増加しています。約1万人の方が食道がんで亡くなっています。