腹腔鏡下胆嚢摘出術における蛍光胆管造影法の開発
腹腔鏡下胆嚢摘出術における蛍光胆管造影法の開発
2009年 4月 1日
病 院 長 万代 恭嗣
担当医師 石沢 武彰
当院は、東京大学医学部肝胆膵外科(國土典宏教授)との共同研究で、胆汁が発する蛍光を画像化することによって、腹腔鏡下胆嚢摘出術の手術中に胆管の位置を明らかにする方法(蛍光胆道造影法)を開発しました。 |
・胆石症に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術は、最も一般的な手術の1つであり、日本で年間約6万件、米国では年間約75万件もの手術が行われています。この手術では、胆嚢を摘出するために胆嚢と総胆管とを連絡する「胆嚢管」を切離します(図1)。
しかし、胆嚢管と総胆管は、脂肪組織に覆われているため、誤って総胆管を損傷してしまう「胆管損傷(図2)」が0.7%発生し、今でもこの手術の最大の合併症となっています。胆管損傷を回避するために、手術中に胆管のX線撮影(胆道造影)を行って、胆嚢管と総胆管の位置を確認することが有効であるとされています。
しかし、X線を用いた従来の胆道造影には、(1)胆道造影の手技そのものに胆管損傷の危険がある、(2)患者と医療者の被曝を伴う、(3)撮影に人員と時間を要すなど、多くの欠点があるため、これに代わる新たな胆道造影法が求められています。
・我々は、肝機能検査薬として広く使われているインドシアニングリーン(ICG; 薬剤名ジアグノグリーン, 第一三共)が静脈注射後に胆汁中に排泄され、しかも、近赤外光を照射すると蛍光を発する性質に注目し、赤外観察が可能な腹腔鏡(開発元:浜松ホトニクス株式会社[静岡県浜松市、社長 晝馬輝夫])を用いて胆汁中の蛍光を画像化することにより、手術中に胆管に触れる前に胆道造影を行う方法(蛍光胆道造影法)を開発し、世界に先駆けて臨床応用しました。
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[1] ICGの投与
・手術へ出棟する30分前にICG 1mL(2.5mg, 肝機能検査用量の約1/5)を静脈内注射します。
[2] 蛍光胆道造影を用いた胆嚢摘出術
・通常通り手術を開始します。
・胆嚢管の剥離操作を始める前に、通常の腹腔鏡を赤外観察が可能な腹腔鏡に入れ替えます。
・フットスイッチでカラー像を蛍光像に切り替えて蛍光胆道造影を行います。(図3)
・蛍光胆道造影で胆嚢や総胆管との位置を確認しながら胆嚢管を剥離します。(図4)
・胆嚢管にクリップをかけ、蛍光胆道造影で総胆管から十分に離れていることを確認して 胆嚢管を切離します。(図5)
・その後は通常通り胆嚢を肝臓から剥離して摘出します。
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・蛍光胆道造影により全例(25症例, 2008年7月~2009年2月)で胆嚢管の剥離前に胆嚢管を描出することができました。
・胆管の蛍光は胆嚢摘出術の終了時まで持続していました。ICGの副作用は認めませんでした。 |
・蛍光胆道造影は、胆管に操作を加える前に胆管を明瞭に描出できる点で画期的であり、胆道損傷を防ぐために極めて有効な手段になり得ると考えられます。
・さらに、蛍光胆道造影は、X線を用いた従来の胆道造影と比較して、(1)X線被曝がない、(2)術者一人でリアルタイムに何度でも検査可能である(簡便性)、(3)胆管と周囲臓器との位置関係が容易に把握できる、(4)造影剤の副作用の危険が少ない、という利点を有しています。
本法によりX線による胆道造影が省略できれば、手術時間の短縮にも寄与します。
・したがって、蛍光胆道造影は、ごく一般的な手術である腹腔鏡下胆嚢摘出術の安全性をさらに向上させるための技術として、今後大きく発展・普及することが期待されます。 |